人生100年時代の資産運用とは?

 「人生100年時代」という言葉が使われるようになってから久しいですが、どのような印象を受けるでしょうか。長生きをすることは素晴らしいですし、日本の平均寿命が長いことは世界的に見ても評価されています。しかし、長生きが良いとされる裏側には、実は「健康である」という条件が隠れています。そして、これからの時代は「経済的に豊かである」という条件も追加されます。今回はこれまでの資産運用とこれらかの資産運用について学びましょう。

これまでの資産運用とは?

 日本で資産運用に注目が集まったきっかけとして、2019年6月3日に公表された金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が挙げられます。俗に言う「老後2,000万円問題」としてニュースやSNSで取り上げられることになったものです。全部で51ページにわたる報告書の中で、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる。」という部分だけが独り歩きしたのですが、実はそれ以外の部分にも注目して欲しいところはいくつもあります。

 たとえば下図を見てください。これまでの資産運用で求められていたことと、これからの資産運用に求められることが簡潔に図示されています。

図1

 これまでは定年が60歳で、だいたい80歳で亡くなるという前提だと、日本におけるスタンダードな社会モデルである年功序列・終身雇用、そして従来の年金受給額を考えておけば、現役時代に働きながら資産運用もしておいて、定年と同時にあとはこれまでに貯めた資金と退職金、年金を切り崩して暮らしていけばよかったわけですが、人生100年時代になったことで定年後も運用を継続し、かつある時期からは計画的に取り崩していかないといけないということが書かれています。

長生きするだけが目標ではない

 内閣府が発表した『令和元年版高齢社会白書』によれば、我が国の平均寿命は2017年現在、男性が81.09年、女性が87.26年であり、前年に比べて男性は0.11年、女性は0.13年と依然として延びています。今後も平均寿命は男女ともに延びていき、2065年には男性が84.95年、女性が91.35年となります。これはあくまで平均ですから、当然100年を超える人の数も増えてくるでしょう。「人生100年時代」は決して大げさな表現ではないわけです。

 しかし、冒頭に書いた通り、ただ長生きするだけが目標ではないと考えます。それはつまり、身体も現役時代とそこまで変わらず健康で、ある程度の経済的な豊かさという2つの条件が揃った状態での長生きを望むわけであり、体が不自由で寝たきりのまま長生きしたり、住む場所も着るものもままならないまま長生きすることを受け入れられる人は多くはないでしょう。

 そのように考えると、人生100年時代を迎える私たちは、平均寿命が延びることにあわせて、「健康寿命」と「資産寿命」も併せて延ばしていかないといけないのです。このサイトでは投資や金融経済のことをテーマに書いていますので、「資産寿命」について書いていきます。

基本に忠実というスタンスは不変

 これまでは定年のタイミングでもらう退職金と、現役時代に資産運用で増やした資産、それに定期的に入ってくる年金収入をやりくりしながら、老後生活を送るという流れでした。しかし、これからは平均寿命が更に延びる一方で、退職金や年金に不安があります。もらえる退職金の金額は減少傾向にあり、そもそも退職金がもらえないという企業も増えています。年金給付額も減少傾向にあります。つまり、これからの資産運用は、豊かで健康な老後生活を送るうえで、これまでの資産運用以上に重要な意味を持ちます。そのため、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、税制メリットのある制度も整備されてきました。

 それでは、これからの資産運用はどのようにすればいいのでしょうか。資産運用の重要性は変われど、基本となるスタンスは変える必要はないでしょう。やはり、長期的な視点に立ち、一極集中せずに投資先を分散させ、機械的に積み立てる。この方針は変わりません。  おそらく、資産運用の重要性が高まるにつれて、様々な誘惑に接する機会が増えるはずです。しかし、そのなかには詐欺のような話もあるでしょうし、非常に高いリスクを持つ金融商品の話もあるかと思います。過度に不安になって、そういうものに手を出すと、かえって大事な資産を失いかねません。税制メリットのある制度を活用しながら、基本に忠実なスタンスを貫き通しましょう。

仕組みを使うか、仕組みを作る

 資産運用を長年続けて、老後を迎えた方からたまに聞く悩みとして、長年投資をしてきたので、どのタイミングで運用資産を取り崩していけばいいかが分からないというものです。米国では既に一般的になっていますが、日本でも投資信託が一定の額を定期的に払い出してくれる投資信託もあります。ターゲットインカムファンドという名前で知られますが、あらかじめ定めた利回りを実現するように、隔月で配当を出していきます。運用がうまくいけば投資元本を残したまま配当を受け取れますが、運用成績が想定を下回る場合は投資元本から一部、または全部の配当を払い出す投資信託です。

 最後に少しだけ「健康寿命」に関わることも触れましょう。仮に資産運用がうまくいって「資産寿命」も延ばせたとします。しかし、「健康寿命」が延びなかった場合、家族に迷惑をかけてしまう事があります。たとえば、高齢白書によれば2012年は認知症患者数が約460万人で高齢者人口の15%だったのですが、2025年には5人に1人が認知症になるという推計があります。仮に資産形成ができたとしても、自信が正常な判断をできなくなってしまった場合、事前に家族信託などの仕組みを活用する必要が出てきます。このようなことも、健康なうちにしっかりと考えておきましょう。

森永 康平
 株式会社マネネCEO / 経済アナリスト
 証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして
 日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。
 業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。
 現在は複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任している。
 ​著書に『親子ゼニ問答』(角川新書)
 日本証券アナリスト協会検定会員。